卒園児課外クラスとして1年生で開講した、 ‘2年生の女の子2名’の小さなクラスでの
ことです。低学年らしい元気いっぱいの活動と、少人数だからこそできる英語での丁寧
なやりとりを行っていました。当時、定期的に指導を手助けしてくれていた外国人の先生
がいましたが、その先生がご自分のお子さんを連れてみえる時は、その子も交えてレッス
ンを楽しみました。
ある日、クラスの2人に、ワークシート(注)の色塗りをさせている時のことでした。
飛び入り参加のその子もお絵かきをしようと紙を取り出しましたが、色鉛筆は持って
いません。私が ”Why don’t you ask them for colored pencils?” と促すと、その子
は隣に座っていた2年生の1人に、“May I use your red pencil?”と尋ねました。
尋ねられたのは、普段は活発だけれども、外国人の先生の前では緊張気味になる、少し
慎重派の子でした。黙って見ていると、その子は自分の赤の色鉛筆を取り出すと女の子
に差し出し、ちょっと控えめな声で “Here you are.” と付け加えました。 それまで、
ゲーム的な活動を共にすることはあっても、彼女たちだけで、直接英語で言葉を交わし
合うことはなかったので、ほんの短い会話の中に、私はとても素敵なものを見せてもらっ
た気がしました。また、「こういう時に使いなさい」と説明したわけではないけれど、
クラス内でのやりとりや活動の中で経験させた “Here you are.” というフレーズを、
子どもが実際の場面で使ってくれたことも、私にとって大きな喜びでした。
そして、当時から数年経った今になって、さらに思うことがあります。
私がその時いたく感動したのは、照れくささから日本語、あるいは無言で色鉛筆を差し
出すこともできた中で、少しためらいながらも、やはり言葉を添えることを選んだ、
その子の学びの力に対してではなかっただろうかということです。
野田 かなえ (中部学院大学)
(注)ワークシート: 一見塗り絵のようなシート。挿絵を活用して
英語でのQ&A等のやりとりをしたり、英語の指示で色を塗ら
せたり絵を描き加えたりという作業をさせ、子どもたちひとり
ひとりが自分のオリジナルシートに仕上げていくもの。
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