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     文字指導 (2)  文字への気づき
 前回、アルファベット文字を正しく書く指導に関連させて、ローマ字指導
について書きました。今回は、初心に戻って、文字指導とは、何を指導する
ものなのか、考えてみましょう。

●形の認識

 「文字指導」最初は、文字の形の認識から始まります。このとき、文字を
書かせて認識を定着させることから始める指導が行われがちですが、私たち
の日常生活にはアルファベット文字がたくさん使われていますから、生活の
中で目にする文字への気づきを促すことが第一だと思います。前回述べまし
たように、他教科の学習で既に書いたり(それもデシリットルなどは筆記体
で書きますね。)衣服や食品、テレビ欄、電気器具などで、毎日目にしてい
ます。 "Happy Birthday"、"Merry Christmas"、"Thank you" などは、
早くから"読める英語"として存在しています。

 このような身の回りの英語文字を糸口に、JPN(日本),  TKY(東京), 
NRT(成田)から始まって、 on,  off,  open,  closed,  am/pm,  S/M/L
(サイズ) など、読める文字を探させましょう。そして、子どものT-シャツ
などに書いてある英語を読み上げてあげましょう。書かせるより、読んでも
らうことから文字指導は始まる、考えて見れば、日本語(母語)はそうして
親しんできたのです。周囲の年上の人たちが読み、書いている様子を見て、
文字の便利さに気づき、絵本を読んでもらい、持ち物に名前を書いてもらい、
文字を身近なものと感じ、読みたくなり、書きたくなるのです。文字指導は
書くことから始めるものではないことを銘記しておきたいと思います。

●アルファベット・単語

 それでは、英語に慣れ親しんで、アルファベットを書きたくなったときに、
どんな指導が有効でしょうか。

 まず、書くことが楽しくなくてはなりません。正しく、きれいに書きたい、
と思っているでしょうから、4本線に載せて、大文字も小文字もきちんと書
く、ということにも興味を示してくれると思います。大文字は大きさが同じ、
上の2段一杯に堂々と書きます。小文字は、真ん中だけ、上2段、真ん中と
下の段、3つの段全部を使うのはjだけ、というルールを、多分先生が板書
なさるのを見ながら覚えていくでしょう。

 このルールを飲み込んでも必ず間違えずに書ける、というものでもありま
せん。全てがきちんと書けたら英語の単語を書く、というのでは、いつまで
経っても意味のあるものを書いて伝える文字の役割を体得することに至りま
せん。少しずつ、子どもが書きたい時に読めそうな単語、英語音としてよく
知っている単語を書かせてみましょう。例えば、cat,  dog,  book,  bag,  
bus,  taxi, などです。書いたら、その脇にそれぞれの単語のイラストを描か
せて、絵辞典のようにすると、自分の書いたものの意味が定着するでしょう。
そうすると、やはりきれいに正しく書きたくもなるので、書き方のルールも
守ろうとしてくれると思います。


●文章の扱い方
                                            
 文字化された文を読めるようにするのには印刷された文字に触れている時
間が足りないと思います。外国の小学校でも英語を教えていますが、そのテ
キストを見ると、英文がたくさんありますが、授業時数が週3〜5回と多く、
開始学年も低学年からで、学習環境が違い、指導内容に相当に開きがありま
す。

 日本の子どもたちがおかれた学習環境で、それでも英語を読めるのは便利
だな、と思わせるためには、読ませるのではなく、読んであげる指導を大切
にしてはどうでしょうか。

 絵カードには、イラストの下に小さくスペリングを書いておく、絵本を使
われるのでしたら、絵を見せて語りかけるときに文字も見せておく、たまに
は英字新聞のスポーツ欄を見せて、日本選手が活躍している記事の中から選
手の名前を見つけさせる、家庭科の授業で、簡単なクッキングをするときに、
英語のレシピを与えて、必要なものを揃えさせ、手順の見当をつけさせる、
など、おもしろがると思います。お塩とお砂糖の分量が逆になってしまうこ
ともあるかもしれませんが、それなりに楽しんでもらえそうです。 

 自治体によっては、中学1年生の教科書の最初のレッスンを読んで書かせ
る指導を行っているところもあります。環境が整えば、できない相談ではな
いので、子どもたちは一生懸命取り組んでいると思います。簡単にその指導
内容を真似ることは危険を伴いますが、指導を誤らなければ、どの子どもた
ちもそこまでの指導を受けることは可能でしょう。

 読むときは、よく親しんでいる単語が使われている文章で、読んでもらっ
たときに意味を十分に理解できたものを読む、読んでいると、その意味がよ
く分かる、という状態を保つことが大切です。意味がだんだん薄れてきて、
音だけが耳に響くような音読にならないように注意しましょう。

 書くときは、ただ文字の形をなぞるように書いているのは、書いたことに
はなりません。単語を書くときも同じです。文章を書かせるときも、音読を
しても意味がよく分かる内容の文を書くようにします。そして、書いたら直
ぐに、音読をしたときと同じように自然なリズムとイントネーションで読み
上げることができるものを書かせる、ということに留意しましょう。書いた
ものを読むときに、たどたどしく切れ切れに読むようでしたら、書かせる段
階に到達していない状態で、書いたことになります。

                      久埜 百合 (中部学院大学)

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