ぼ〜ぐなん広場(66) 英語らしいリズムかどうかが私には分からない |
Q:「ぼーぐなん広場No.27」で、「リズム」について書かれています。 「英語には英語のリズムがある。」 「私たちが授業で使おうとするリズムに、ともすると日本語と同じようなリズム感で 英語の文や句を言わせようとするという落とし穴がある」 「教材選びにも要注意」 とあります。 指摘されていることは分かるのですが、英語らしいリズムかどうかが私には分からな いので不安です。 A:「英語らしいリズム」 あ、あれは英語を母語として育った人の話し方だ、おや、少し違うな、どこの国の人 だろう、と思えたら、「英語らしいリズム」を感じ取れているのかな、と思います。 真似るのがとても上手で、英語らしく話そうとたくさん英語を聞き続けて、すっかり 英語圏で育った人のように話せる方もおられます。でも、どこまで英語話者とそっく りなのか、英語話者がどう感じるかは別です。これは日本語でお喋りをしているとき に、ふと、相手の話し方がどこか違うと感じることがあることからもご想像いただけ るかと思います。 ただ、分かりやすい、聞き取りやすい英語を話せるようになることは大切ですが、英 語話者と同じようなリズムとイントネーションで話せるようにならなければいけない、 と思いこむのも問題です。子どものときに英語圏で育った帰国児が増えており、英語 話者と同じような音の流れを獲得した人もいますが、日本でコツコツと英語を学習し た人には、そのような音を獲得するのは難しいと言えます。それは個性のようなもの で、それぞれの訛りがアイデンティティだと考える方がいいと思います。大人になっ てからでは同じ日本語とはいえ、東北弁や関西弁をその土地で育った人のように習得 するのは難しいのと同じです。 英語を学んだ到達点で、やっぱり日本人特有の訛りが残る、というのは個人差があり ますが、やむを得ないことで、決して「悪いこと」ではないと思います。とはいえ、 小学生のように音を吸収することが大人より得意な時期に、英語とは違う音を浴びせ て英語経験をさせることは、できるなら避けたい、と考えます。世界にはいろいろな 英語のアクセントで話す人がいるので、これだけが英語の音だ、という考え方は間違 っていますが、子どもたちが英語を使えるようになっていくときに、相手が聞き取り やすい英語の音の流れを獲得できるように、お膳立てをしたい、というのが正直な願 いです。身振り手振りを付けて歌いながらの日本の英語の授業を知っている人だけが 分かる「英語の話し方」というのは、better than nothingとするか、less than nothing と思うか、指導者や保護者が判断していくものではないでしょうか。 Q: どんな教材がいいのでしょうか? A: いくつか教材制作に手を染めてきましたが、やはり音源を制作するときに大変神経を 使います。 「えいごリアン2000〜2001」では、15分の番組の中で英語圏以外で育った人の 英語を聞いて受け答えをする場面が必ずあります。それでもお互いに十分コミュニケ ーションを成立させることができていて、彼らの素晴らしい笑顔でのやりとりは、視 聴している子どもたちにとって大きな励ましとなるのですが、不思議なことに、子ど もたちは、その訛りのある英語は獲得せず、英語圏の人たちの音を真似ています。そ の結果、完全に日本語訛りのない英語になるか、というとそうではありませんが、で も、このような経験を繰り返していれば、相手に分かってもらいやすい英語の音に近 づいていけるのではないか、と思います。英語圏で生活すること無しに英語らしい音 を獲得するためには「それらしい音」の詰まった音源を聞く以外に道はないでしょう。 昔、今ほど英語の音声教材がなかった頃、先輩たちが映画館に足を運んで映画を何度 も何度も見続けたという話をよく聞きますが、やはり学習ストラテジーとしては最高 だったのだと思います。 Q: どんな授業を心がけたらいいのでしょうか。 A: 自分の英語の発音に自信がなかったら、音源をひたすら子どもに聞かせることです。 私はぼーぐなんの教材に付いている付録の音源を、私の声より少し大きくして聞かせ ました。そうすると、私は大きく口を動かして、確かに英語を使っているのですが、 子どもたちには音源の英語の方がしっかり耳に入ってきます。音源の音を無意識に真 似るようになります。そして、その音源を聞きながら繰り返す「そっくりさんゲーム」 というのをやって、自分でどれだけ"そっくり"に言えたか、判断させました。子ども たちは正直なもので、少しうまくいった、今度はさっきよりうまく真似ができた、と 言い合っていました。子どもの耳の方が確かで、「英語らしいリズム」「英語らしい イントネーション」と、そうでないものとを峻別するようです。私自身、自分の耳よ りは子どもの耳を頼りにしていたように思います。 Q: 中年の私が、今からでも、「英語らしいリズム」を身につけるにはどういうことをし たらいいのでしょうか? A: 中年を遙かに過ぎた私がお答えするのも妙ですが、やっぱり「本物の英語」を聞き続 けることですよね。仮にCNNを1時間つけっぱなしにするとしたら、または、「え いごリアン」を4回分聞き続けるとしたら、一日の24分の1を英語で過ごしたこと になります。そのときに、口でブツブツ聞こえてくる英語を繰り返すといいと思いま す。この学習法はシャドーイングと呼ばれており、大変効果があります。その上で、 話し相手がいないのはやむを得ないことなので、自分に話しかけるのです。これもプ ライベート・スピーチといって、母語を覚え始めた幼い子どももやることで理に適っ ています。 A: それから、英語らしいリズムを身につけていると、どんなメリットがあるのでしょう か? Q: 英語らしいリズム、体の動かし方ができるとしたら、マイケル・ジャクソンのような 身のこなしができるようになるでしょう。音楽を楽しむ幅が広がると思います。 ことばだけについて言えば、こちらが話すときに相手に分かりやすく話せるようにな るでしょうし、相手の話し方も、そのリズムが持っているアクセントをそのまま受け 入れて聞くことができますから、聞き取りやすく理解しやすくなるのだと思います。 どこまで到達したら、そのことばを習得したと言えるのか、母語を習得するのはほとん どの人が成功するけれど、第2言語の習得が母語の域に達する人は極めて少ない、という ことも真実なので、あせらないほうがいいですね。ただ、常に「本物の英語」に耳を傾け ていたり、体を動かしていたりして、英語に触れていることが必要でしょう。 じゃぁ、どれが本物なの? それは、英語話者が普通のお喋りをしているときの音です。 聞かせよう、言わせようとしてムキになって話しているのは、「本物」ではない、という ことも覚えておきましょう。 久埜百合(中部学院大学) |
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