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   授業参観で、
子どもたちが教えてくれたこと
広場にお立ち寄りの皆様


 皆様の2009年はどんな年だったのでしょうか。いろいろなことが突然起こり、びっ
くりするやら慌てるやら、それでも新インフルエンザの強風を柳よろしく受け流して、や
っと師走も半ばを過ぎました。振り返ると、ずいぶんたくさんの小学校や中学校の英語の
授業を参観させていただきました。子どもたちは元気よくエネルギーを爆発させて楽しそ
うでした。中学生の机に向かっている姿勢にも、自分で学ばなければならない、という自
覚が芽生えていることを感じさせてもらいました。
 どれもこれも心に残ることがたくさんありましたけれど、その中から2つだけご報告さ
せていただきます。

 一つ目は、6年生の「英語ノート」による買い物ごっこでした。準備段階で見せていた
だいたときの品物のカードは、公開研究会の当日になると見事にグレード・アップしてい
て、子どもたちがなんとかいいものを見てもらいたいのだ、と自分たちで手を加えたその
意欲に、私もつい触りたくて手が伸びました。見るからに美味しそう、そして、エスニッ
ク・レストランということで6年生らしい外国料理についての調べ学習の跡も見受けられ
ました。Take-out でお持ち帰り、その場で食べられないのですが、お客もレストランの
売り子も、にこやかで楽しげでした。
 お客が Excuse me.と声をかけると、売り子が May I help you?と受ける、というのが
ダイアローグの始まりでした。初めはどちらも元気がよかったのですが、半ばころから売
り子の May I help you? の呼びかけの声がだんだん大きくなって、Excuse me.が掻き消
されそうになるのがおもしろいなぁ、と見ていました。目線をしっかりお客に合わせて待
ちかまえている売り子に、今更 Excuse me.でもないな、というお客の判断はことばを使
う上では当然のことで、売りたくてたまらなくてうずうずしている売り子が、すぐさまか
ぶせるように May I help you?というのですから、双方が同じ声の大きさでダイアローグ
を進めようとする指導者側の目論見は子どもには通じていなかったようです。でも、この
ような授業の現場で起こる自然な成り行きを見て、ことばを使う意味を子どもたちが汲み
取っているのだと考えさせられました。言う必要のなくなった Excuse me.を勢いよく言
う気にはなれないのです。

 次にご紹介するのは3年生のクラスです。ここでも同じようなことが起こっていて、私
はやっぱり子どもは素晴らしい、と唸ってしまいました。
 授業のターゲットは  What is this?  It is a 〜. と答えることでした。そこで先生が考え
られたのは、What is this? を使わずにはいられない素晴らしい設定でした。まず、段ボ
ールの箱の底を抜いて白い紙を貼ったものと懐中電灯と数種類の文房具を用意し、光を通
しにくいカーテンで窓からの光を遮り教室全体を暗くしました。そうして、6〜7人のグ
ループに分かれた子どもたちが、また2手に別れて、質問者と答える側になります。質問
者は、その箱の中の文房具を一つずつ懐中電灯で照らして、外側にいる子どもたちに What
is this? と尋ねます。白い紙に映し出された影を見ながら、子どもたちは It is a pen.  It 
is a triangle.  It is a ruler (stapler, pencil case, marker). などと当てていきます。装置
もおもしろい、影の文房具が何かを当てるのもおもしろい、ということで、影の形を見つ
めている子どもたちはとても集中していました。懐中電灯を操作する子ども、文房具を持
って位置を変え、いろいろに影の形が変わることを楽しむ子ども、どの子もみんな夢中で
した。最初の内はとても元気よく What is this? と大きな声で訊き、答える側も間髪を入
れず  It is a pen! などと答えていたのですが、しばらくすると双方とも声が小さくなって
いき、最初のにぎやかさが収まっていってしまいました。
 静かになった子どもたちが何をしていたか、というと、懐中電灯の光をどの角度で文房
具にあてるか、どの位の距離からあてるか、近寄せるとどうなるか、離すと影の濃さがど
う変わるか、そんなことに熱中し始めたのでした。先生が巡回して、What is this? と促
すと、その時は声が大きくなるのですが、子どもたちだけになるとまた懐中電灯を動かす
ことに夢中になってしまいます。
 授業の後の協議会で、どうも子どもがざわざわとしゃべっていて、英語が聞かれなくな
ってしまった、と反省しておられましたけれど、私は大成功の授業だと思ってしまいまし
た。この授業で使わなければならなかった What is this?  It is a pen.  It is a ruler. など
はもうすっかり覚えているとしたら、やはり暗くなった教室で懐中電灯を操作することの
方がよっぽどおもしろかったはずです。子どもの好奇心をかき立てる充実した45分だっ
たに違いありません。英語活動にこんなハプニングがあってもいいじゃないか、と私は子
どもの真剣な心の動きに接することができて、大満足でした。

 この他にも、ご報告したい授業はたくさんありました。お邪魔させてくださった学校の
皆様、本当にありがとうございました。広場の先生方の授業も、きっと素晴らしい子ども
の姿で溢れていたのだと思います。来年も豊かな実りがありますように。


                              久埜百合(中部学院大学)


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