ぼ〜ぐなん広場(71) 練習と表現活動 | |
Q: 授業のはじめに、「今日は、こういう表現を練習します」と日本語で先ず説明 して、授業の目的をはっきりさせます。活動に使う英語を板書することもありま す。そして、その英語を練習させてから、表現活動をしようとするのですが、な かなかうまくいきません。どうしたらいいでしょうか。 A: まず「今日の表現」の基本形を「練習」させよう、というところに問題がある のかもしれません。この「練習」は、言わせる練習になることが多く、つっかえ ないで言えるようになるまで「練習」ということになりがちです。その表現を使 って話しているいろいろな場面を聞き取って想像を膨らませることよりも、それ を言えるようになることを目的として聞かせますから、新出の単語や句を区切っ て発音するので語気も強くなり、インプットがとても不自然になります。 What school subject do you like? I like math. というのが本時のターゲッ トだとすると、先ず、「好きな科目を言えるように」科目名の発音練習、そして、 I like 〜. と科目名を入れ替えて練習、それから、「さぁ、お友だちの好きな科目 を聞いてみましょう」と言って、また、What school subject do you like? と 尋ね方の練習が続きます。意味は分かっているので、英語の音だけを注意させて 正確に言わせよう、ということになります。 しっかり発音して聞かせようとしますから、強く発音してしまいます。子ども は一度聞いただけですらすらと言えるようにはならないので、何度でも繰り返し て聞かせる、だんだんに強めに発音するようになる、ということで、「知りたい から尋ねる」「好きな学科を相手に教えたいから答える」という気持ちから離れ てしまいます。「上手に言おう」という気持ちが働きますから、言い方も強めに なります。 そんな練習が終わって、いざ友だちに尋ねようとするときには、何を聞かれる か既に分かっている相手は本気で質問に耳を傾けてくれない、答え方はおざなり、 ということになってしまいます。何が好きなのか聞かないと分からない状況であ れば、耳をそばだてます。予測のつかないものを「好きだ」と答えるかもしれな い、と思えば、答えを聞き出そうとして待ちかまえます。 たとえ「練習」であろうとも、分からないことを聞き出す緊張感が大事です。 「何を言い出すのだろう」という気持ちで次のことばを待ちかまえるという関係 が、コミュニケーションの「場」を作り出します。意外性のある話だと、話し方 が流暢でなくても、ついつい集中して聞こうとします。英語活動でも、この意外 性とそこから生まれる緊迫感が必要です。思いがけない情報が増えれば増えるほ ど、その情報交換に参加したくなります。それが、いつの間にか「練習」になっ ているのです。 スーパーのチラシを見て、What can you see? I can see pumpkins. 子ど もはすぐに思いつかなくても外来語なので聞けば予想できる単語を使って話しか け、もう一度、What can you see? と促すと、(I can see) cookies. (I can see) bananas. と自分で考えて言い始めます。単語だけ、それも単数や複数に 注意が及んでいない場合もありますが、英語で言える品物を見つけて頑張ります。 友だちが言うのを聞いて、どんどん手を挙げて答えてくれます。こちらも、Oh, you can see cookies. Yes, I can see cookies, too. That's right. I can see bananas, too. ともう一度正しい英語で言い添えます。このようにして繰り返 していると、自然に「練習」は展開していきます。子どもたちの言いたいことを 言わせる、そうすることで「練習」の目的を果たしながらも表現活動になってい くのです。 授業だから口頭練習の内容は絵空事になっても仕方がない、と思うのは間違い でしょう。相手から本当のことを聞き出し、こちらの気持ちも伝えることで、初 めて生きたことばになります。子どもは「単なる練習だな」と見破ると、授業の 間、教師につき合ってはくれますが、本気にはなれません。「まじめに!大きな 声で、しっかり目線を合わせて!」と言ってもうまくいかないのです。TTを組 んで、芝居っけたっぷりにやってみても、授業は限りなく作為的になり、子ども が「表現したい!言ってみたい!」という気持ちになれないまま、英語の音ばか りが流れて、表現する意味が失われて空疎になっていきます。 「練習」そのものが真実味のある内容の情報交換でなければ、子どもの心は動 かない、ということを肝に銘じて授業作りをしていきたいと思います。 久埜百合(中部学院大学) 2010.4.3. |
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