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英語活動: ‘インプット’について考える
 台風の襲来で、先生方は子どもたちの安全のためのご配慮など、さぞかしお忙しい2学期
の幕開けとなったことでしょう。避難訓練で授業がつぶれる、などと言ってはいけないな、
と改めて思いました。
 大震災からの復興も気がかりです。広い被災地にあるたくさんの学校は平常の授業に戻る
ことができたのでしょうか。それぞれに地域の実情が異なるでしょうから、先生方のご苦労
も一言では言いつくせない難しさがあると思います。放射能のために校庭で遊べない、体育
もできない、という状況は、経験していないものには想像を越える難題だと思います。先生
方のご苦労をお察しし、一日も早く教育現場が元の姿を取り戻すことができますように祈る
ばかりです。
 そんな悪条件の中で学ぶ子どもたちが、10年後 に社会人となったときに直面する 世界の
情勢を思うと、必修化された「英語活動」で英語と出会いながら、是が非でも英語も使える
コミュニケーション能力をつけて欲しい、と願います。そのために先生方が楽に授業を続け
られるようにするには、今何が必要なのか、と考え続けています。
 
 授業は、何らかのインプットで始まります。インプットには、先生の語りかけ、CDの歌、
DVDの視聴など、いろいろな方法があると思いますが、 そのどれもが 子どもの心を捉える
ことができると、授業の効果は上がります。文部科学省からだけでなく、各自治体の教育委
員会からも工夫を凝らした指導のための資料が届いているようです。
 このインプットが功を奏して、子どもたちが英語を使いたくなると、初歩的な英語で自分
の気持ちを伝えていく力が付いていくでしょう。どのような点に注意して、このインプット
を効果的に進めればいいのでしょうか。子どもたちは、どんなインプットに強く反応してく
るでしょうか。

◆インプットをするときには、どんな注意が必要でしょうか

 インプットということばは、気軽に使われていますが、その中身を定義されることはあま
りないようです。よく言われている teacher talk は、インプットの一つの例に過ぎません。
教室英語といわれるものもインプットの小さな側面だと思います。

 授業の本体で子どもたちに与えたいインプットについて考えてみましょう。
@真実味のある題材を扱い、中学英語の基準から外れない英文で聞かせたい
A大人の感覚で「聞かせて、言えるようにさせたい」題材ではなく、子どもが友だちや家族
 と話題にするような身近な題材で、聞いていると「分かる!」と実感できる内容を選びた
 い
B思わず真似をしたくなるような語り口で、話しかけたい

 いくら正しい英語であろうとも、子どもの生活感覚から距離のあるものを選んだのでは、
聞きたくもならないし、言いたくもならないでしょう。ゲーム的な活動が次に控えているか
ら表現活動に参加している、というような状況になりがちですが、ここは子どもの目線をも
っと意識して考えたいと思います。作り事の内容は、すぐに見破られて、子どもはそれなり
の対応しかしてくれません。

◆英語活動に参加する子どもたちは、どんな学習能力を備えているのでしょうか。

@子どもたちは、日常生活の中で触れる英語から、「英語らしさ」というものに、既にうす
 うす気づいているらしい 

 ・子どもたちは、聞こえてくる英語の「英語らしさ」度を自分で測っているな、と気づか
  されることがあります。教師の語りかけと、視聴覚教材の音声とを比べて、「英語らし
  い」と判断したほうを選んで真似しているようです。ただ、英語に晒されている経験が
  少ないので、彼ら自身の発話は未熟な音になることがあります。でも、思わず口走って
  しまう彼らの英語が、あまりにも聞こえてきた英語そっくりなので、おぉ!と感心する
  ことがあります。リズムを取ったり、イントネーションを真似することは上手なので、
  それなりの「英語らしさ」に近づこうとしているからでしょう。

 ・子どもたちが聞こえてくる英語に耳を傾け、何とか真似をしようとして英語を選んでい
  る姿は、「えいごリアン2000~2001」を見せているときに観察できます。世界各地の
  人々が番組には登場するのに、マイケルやジャニカの口調だけを真似ているので、その
  違いを分別する耳の鋭さはよく分かります。とすると、「英語らしい」音声を聞かせる
  ことが十分できるようにすれば、多少外れた英語も安心して聞かせられる、子どもは選
  んでくれるのだから、ということになりそうです。

A子どもたちが英語を聞き取ろうとするとき、外来語の知識を頼りに、すばらしい類推能力
 を発揮する

 日常生活の中で外来語使用が増えているので、子どもたちは相当量の英語の語彙を頭の中
 に蓄えています。その語数は1500語をはるかに越えているでしょう。英語で新情報を聞
 かされたときには、その外来語の知識を駆使しながら期待以上の類推能力を発揮します。

B子どもは、だんだんに分かってくることを楽しむことができる
  
 子どもたちは、母語である日本語を使っている時も、全部が分からなくても平気で、だん
 だん分かることに慣れていますから、英語でも全部は分からないことを気にしません。分
 かったことだけで反応しようとします。全部が分からないと慌てる大人とは、そこが大き
 な違いだと思います。私たちはインプットを続けて、少しずつ分かるところが増えていく
 快感を子どもたちに味あわせたいと思います。ただし、「今の英語分かった?」と心配し
 て、すぐに日本語で説明してしまう授業スタイルに慣れると、大体分かっていても、日本
 語での説明を求めるようになりますから、注意しなければなりません。

◆安心してインプットできるものを見つけましょう。

 いろいろな指導方法や、モデルとなる英語のダイアローグや歌・チャンツが紹介され、実
践されています。これらが、どれほどに「英語らしさ」に近い習得を促すのか検討する時期
に入っていると思います。例えば、英語圏で作られた映画の中で使われている英語の語りと
似ているかな、学校に来ている外国人講師たちが普段のおしゃべりの中で話す英語と似てい
るかな、というのが判断の物差しになるかと思います。自然な語り口を聞かせるのと、言え
るようにするために聞かせるのとでは、声の抑揚、強さなどに大きな違いがあります。目の
前にいる子どもたちに、どんな英語と出会わせたいのかを見極めて、インプットのモデルを
見つけたいと思います。

@中学で「やり直し」をしないで済む、中学で始まる英語学習の下支えとなる英語経験を積
 ませたい
A5、6年生が 他教科の学習で示す学習能力を踏まえて、高学年の子どもたちが 興味を示す
 題材を探し、気持ちをこめて表現活動に取り組めるようにしたい
Bネイティブ・スピーカーのように英語を使いこなせない私たちが、素手で英語のインプッ
 トをしようとして無理をするのではなく、高学年の子どもたちが楽しめる視聴覚教材を活
 用して、「英語らしさ」を補強したい
C教師間のネットワークを密にして、授業に役立つ資料や指導方法についての意見・情報交
 換を盛んにしたい

 2学期の終わり頃には、次年度に向けてカリキュラムの見直しなども始まるでしょう。
現在手にしている『英語ノート』に替わるものが、次年度からは教材として配布されること
になっています。今実践しているものと、どこが似ていて、どこが違うのか、3学期中に検
討をする必要が出てくると思います。お互いの考えを伝え合い、疑問を解決していくために、
この広場が少しでもお役に立てるといい、と思っています。

                          久埜 百合(中部学院大学)
2011.9.6.

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