子どもと「えいごリアン」
番組放映中に、いろいろな質問が寄せられました。それにお答えしながら、制作側も学ば せていただくことがたくさんありました。その中から印象に残った質問を思い出して、改め てお答えしていこうと思います。 Q:子どもは楽しんでみているけれど、全部は分かっていないような気がする。説明をし た方がいいのか。 A:全部は分かっていないのではないか、英語の一部を聞き漏らしていたり、理解してい ないのではないか、と思われるのは、先生があまりにも隅々までお分かりになるので、その 辺りを子どもが理解していないのでは、とご心配になるのだと思います。私がサッカーの中 継を見ているとき、解説の言葉を全部理解することはできません。でも、大体のことは見当 がつきます。選手があのときどうすればよかったか、という解説の部分は、殆ど耳を素通り しています。子どもたちが「えいごリアン」を視聴しているときも、きっと似たような状態 ではないかな、と思っています。 それでも、子どもはすごい!と思わせてくれることが起こるのです。2001年度版第4 回の Where are you going? を見せて授業をされた先生からのご報告は、私をとても喜ば せてくれました。ジャニカ忍者が氷壁をよじ登ったり、例によって妙なことが続く内容でし たが、見終わったときに先生が職員室に行かなければならなくなって、 「ちょっと待ってて ね」といわれたら、間髪いれず子どもが “Where are you going?”と叫んだのだそうです。 このときも、子どもが「全部」分かっていた保証はありませんが、30回以上繰り返されてい た“Where are you going?”を的確に使えるようになっていた、ということです。それ以 上のことは求めず、視聴を続けていると、期待以上の英語が子どもの心の中に蓄積され、あ るとき一気に噴出してくるのだと思います。 Q: マイケルやジャニカやユージさんが挨拶をしているとき、Nice to meet you.とい われたら、Nice to meet you, too.と返事をしているが、あの too は two ではないこと を説明した方がいいか。 A: おもしろい質問で、忘れられないもののひとつです。私だったらどう返事をするだろ う、と考えました。子どもがその最後の音に気がついて、「2 (two)」と勘違いをして質問 してきたら、「良く聞き取れたね」と、まず褒めて、「最初の時には、Nice to meet you, one. っていわなかったね、Nice to meet you,too.といった人の次の人が、いつか Nice to meet you, three. っていうかもしれないから、よく聞いていてね」とだけいうかもしれません。と んでもないインチキを言う教師だ、と思われるかもしれませんが、英語の聞き取りにはその くらいの遊びも欲しいと思います。大体、子どもは最初から、その too なるものが何なのか、 t-o-oと書かれているものだ、とか、2も同じ音だ、などと考えてはいないでしょう。Nice to meet you, too. というひとつの音の塊として頭の中に取り込んでいるだろう、と思って います。テキストに印刷してある挨拶のダイアローグで挨拶の仕方を読み、発音して覚える と、つい too と頭の中に書いて、two ではないのだ、と言い聞かせたくなるかもしれません が、先ず音に触れて、音でしか反応したことのない子どもたちは、too か、two か、という 躓きもなく自然に言葉を飲み込んでしまうのです。羨ましい限りです。 Q: 「えいごリアン」を視聴した後は、子どもの理解を助けるために、その番組で扱われた 表現を練習させていますが・・・。 A: ちょっと待ってください。確かに一つの番組に一つの表現を選んで、何度も繰り返し て使うようにしてはいますが、それを練習してください、という意味ではありません。でき ることなら、その表現を使いたくなるような楽しいアクティビティをしてください、という ことです。 大きな声で練習、というのも考えものです。2000度版第19回 What's wrong? を 見せた後、クラス全員で大きな声で What's wrong? と練習されている授業を参観したこ とがありますが、この表現は、そっと困っている人に囁くようにいってあげるのがいいと思 います。 あぁ、いいなぁ、と思う授業を参観したことがあるのでご紹介します。これは「学校放送」 というNHK出版から出ているムックでも紹介したことがあります。算数教育が専門という 先生でしたが、殆ど生まれて初めての英語の授業に挑戦されていました。 2001年度版第17回を視聴した後、先生が事前に撮ってこられた写真(学校周辺のコ ンビニ、郵便局、本屋、銀行、ラーメン屋その他、それから学校の先生方の顔写真の数々) をカードにして教室のあちこちに裏返して置いておかれました。そして、先生は Where is ○○?と仰るだけ、子どもたちは見つけると Here! というだけ、という授業でした。それで もクラス全員が夢中になって先生の○○を聞き取ろうとして耳を傾けていました。そのうち に1人が、先生の背中を突っついている姿が目に留まりました。どうしたのかと見ていると、 今度は、その子が Where is ○○?と大きな声で言ったのです。そうしたら、途端に他の子 どもたちも質問する方になりたくなって、先生の後ろに行列ができてしまいました。順番に Where is ○○? と質問させてもらった子どもは、また探す方に廻ります。アクティビティ に飽きてぼんやりしている子どもは一人もいません。「練習しよう」とか、「覚えた?」という ような、授業ではありがちな話しかけはまったく無かったのに、なんとも微笑ましい授業で した。子どもは、使いたくなったら英語でも何でも使ってしまう、逞しい限りです。 久埜 百合 (中部学院大学) |