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2.子どもたちの成長と学習能力   3.学習環場の現状とその整備  4.指導開始にあたって
5.6年生終了までの到違目橡と4技能の位置づけ  6.指導の方法とテクニック    
7.子どもの自学自習教材の種類
[英語教育 10月号] Oct.1996 Vol.45 No.8

小学校での英語教育 教材・学習方法と子ども(久埜百合)

1.はじめに
  この特集では、英語を学習する子どもに焦点が当てられ、子どもを対象にした授業
での指導技術と使用可能な教材について検討しようとしているのだが、その"子ども"
の年齢や学習環境を確認しておかないと、議論が空回りしかねない。

小学校に在学する6年間は、学習者の心身の発達も生活経験も幼児期を脱したばかり
の1年生から思春期を迎えた6年生まで変化が大きく、中学から高校までの6年間と
は異なる。指導方法はもちろん学習内容やカリキュラム編成と、それに伴う教材の
制作・選定には十分な配慮が払われなければならない。特に公・私立小学校で現在
試みられている英語を取り入れた学習では、クラス編成や学校という教育環境が中学
校と似ているように見えても、必修教科外の付加的な存在に見倣されがちであり、授
業時数も週当たり1、2回と極端に少ないことなど、中学以降で考えられている語学
教育とは性格が大きく異なることを銘記しておくべきである。このように、学習する
条件が中学や高校と比較しにくいことを心に留めながら、子どもが新しい言語を習得
するための指導技術と、それを助ける教材について述べてみたい。

2.子どもたちの成長と学習能力
 学習内容と学習の形態を決め、それに沿った教材を選ぶためには、子どもたちが6
年間に亘って示す心身の成長と学習態度・学習能力の変化をきめ細かに観察し、考慮
に入れなければならない。そして,小学生だからこそ習得でき、中学生になってから
学習を始めたのでは遅すぎる言語能力とは何かを踏まえつつ、指導目標を設定するこ
とができる。

小学生を指導した経験のあるものは、異口同音に低学年の指導の面白さについて語る。
日本語とは異なる英語独特の音を柔軟に習得していく力、間違いを気にせず、聞こえ
た通りに真似ながら表現しようとする積極性、与えられた情報を完全に理解できなく
ても、分かったところから推理して状況に対応しようとし、未知のものを臆すること
なく受容する開放された心が、この時期の子どもの指導に特徴的だからだろう。公立
小学校での実験的な取り組みでも、何らかの形で1年生から導入しているところが多
く、音声中心の指導で成功している事例が紹介されている。

この傾向は3年生前半くらいまでは維持されるが、4年生になるころには、だんだん
薄れてくる。指導者が十分に身構えて授業を進めないと、音声中心の指導が次第にや
りにくくなるのは事実で、活発な授業作りのためには、言語材料の提示にも彼らの心
を揺さぶり動かす題材を注意深く選ばなくてはならない。これは中学年以後の児童の
新しい言語に対する感受性が鈍くなっているのではなく、音声と同じくらい英語の文
の成り立ちにも気が回り、先生やテープで聞く英語の音と自分が再生できる英語の音
との違いにも気がつくので、用心深くなる。およその見当で切り抜けていた分からな
い部分を全部分かりたいと思う。そこで対応が遅れがちになるのである。言い換えれ
ば、高学年に近づくにつれて、経験的に表現活動だけで言語を身に付けるのではなく、
中学での入門期程度の学習に対するレディネスが備わってきていると見て差し支えな
いと思う。

低学年では、楽しく遊びながら歌やチャンツを覚えたり、やさしいゲーム的な要素の
ある表現活動で、英語のリズムやイントネーションを無意識のうちに体験させる。中
学年ではその活動を更に発展させて、多少複雑な情報伝達ができて口頭による発話に
流暢さが加わるようになる。高学年では、論理的な思考に支えられて、この表現活動
が少しずつ文字でも表現できるようになり、記億される量も多くなって、実質的なコ
ミュニケーションを楽しむ糸口を掴むことができる。

たとえ週1回の授業でも、子どもの新しい言語を吸収しようとする感覚は鋭く、創造
的に取り組む姿はたくましい。この学習のプロセスをたどりながら教材や教具を制作
し与えていかなければならない。テキストの意味内容の提示の仕方や発展の手順がお
ざなりであったり、機械的で無意味であると、彼らは必ず学習活動についてこなくな
り、授業は破綻をきたす。「ことば」とイラストとの誤謬も目ざとく見つけて鋭く指
摘するし、子どもにおもねったイラストに対してもなかなか手厳しい評価を加える。

3.学習環場の現状とその整備
 現在英語を取り入れた学習を実施している公・私立小学校では、学習開始期・週当
たり授業時数・クラス編成・指導者・導入されている教育機器・教材など実に多様で、
一般的な傾向を述ぺることは難しい。しかも、これらの学習の条件で習熟度が左右さ
れることを考慮に入れ、子どもが使いこなせる教材・教具を選択しようとすると、
100種を越える教材が存在し、かつ1校で各学年ごとに複数の教材が採用されてい
ても不思議ではない。

教材の種類もまた多様で、テキスト・その付属教具類・カード類・絵本・図鑑・ワー
ドブックなどの辞典類・オーディオ/ピデオテープ類・CD/LDなど・CAI教材
(CD-ROMなど)と掲げれば際限がない。しかも、市販されているものや自主制作のも
の、制作者も外国人あり日本人あり、語彙や語法の提示の仕方や話題の取り上げ方な
ど、それぞれに特徴があり、簡単にその優劣を判断することはできない。指導者が教
材の視聴や分析研究ができる施設が望まれる。

4.指導開始にあたって
 まず英語の「何」から教え始めるかを考えたい。中教審の答中ででてきた「英会話」
を習熟させるためにも、小学校で開始する意義は、児童が音声の習得にすぐれ、表現
意欲が旺盛であることに注目して指導することであろう。この際、単に入門期の中学
の指導内容を下ろしてきたような指導をするのではなく、小学生に適した指導技術を
駆使して授業を進めなければならない。低学年から導入することができれば、週当た
り授業時数の総計は変わらなくても授業回数が多いことが望ましい。
 
そこで、短時間に集中して指導できる教材を用いて授業をしたい。中学年から、だん
だんに時間をかけて英語による表現活動を楽しめるような内容の教材に移行し、高学
年では、他教科での学習内容に呼応する、彼らの精神発達段階に適した満足感を得ら
れる豊かな内容の学習活動ができる教材が欲しい。もし、小学校6年間の途中で学習
を開始し、低学年特有の学習態度を活性化させた指導を受けるチャンスを失ったよう
な場合は、それを補うための細心の努力を払って指導し,初期の指導目標に少しでも
近づけるように手助けしたいものである。

5.6年生終了までの到違目橡と4技能の位置づけ
*listening
  授業はlistening を重視して、聞いて分かる言語活動から始まる。特に低学年では、
体を動かし、実物や教具類で意味を確認しながら、ゲーム感覚で表現活動に参加させ
る。歌を指導するときも、歌詞や楽譜を見せるよりは、歌詞の内容を体で表現したり、
絵を見せたりrealiaを触ったりして理解を深めながら歌う。

*listeningからspeakingへ
  授業回数が少ないこともあって、聞き取れたことを正確な音声で発話に結びつける
ことは容易ではない。Listening をさせたらspeakingにすぐに結びつけようとするこ
とは危険で、子どもが聞き取った通りに真似をすることを励まし、たとえ不完全であ
っても、深追いをして発音矯正をすることは控えたい。聞く量を増やすことが先決で、
そのための教材の開発はますます必要となるであろう。

*listeningの量を増やすstorytelling 
 本や紙芝居、操り人形やぺ一プサートなどを利用したお話を聞かせながら指導しよ
うとする Whole Language に似た指導法も、listening と簡単な対話形式の言語活動
に結びつけられて、効果的である。扱う題材も子どもたちの日常生活で経験すること
ばかりでなく、日本や外国の民話や,更に発展させて国際理解に関連した内容を取り
上げることもでき、「ことば」を実際に使う経験を与えられる。

*文字認識からreadingへ
 文字を認識する力は、大文字に関する限り低学年でも大人の想像以上に高く個々
の文字が発する音についてもかなりの知識を持っている。listening の指導で絵本や
漫画の絵を使って話し合うときに文字があるように、指導の初めから文字を添えてお
くことも可能で、次第に文字認識を深めていく。

音声がしっかり習得された段階になると、語句や文を読み聞かせてから子どもに読ま
せても、リズムやイントネーションのような英語独特の音が崩れることはない。この
頃の文字指導は学習内容の補強にもつながる。学習を続けていく間に子どもたちが経
験する試行錯誤を、教材と教師のちょっとした支えで子どもたち自身が修正しながら
学習を続ける力をつけていく。そして、読めないと思っていた英語を口頭練習のとき
に目で確認することさえ、いつのまにか何食わぬ顔でできるようになっている。

*reading からwritingへ
  文宇指導の教材は、よくあるペンマンシップのような練習帳ではなく、表現活動に
基づいた、子ども自身が何を読み、何を書いているか分かっている練習ができるよう
に作られたものがよい。

*4技能 + thinking
  listening, speaking, reading, writing を通して指導者が留意しなければならな
いのは、その言語活動がtruthfulでありmeaningfulであることである。学習者がただ
 "言わされている"ロボットにならず、"どうしても言わなければならない"内容である
と自分で考え、判断したものでなければ、心のこもった表現はできず、イントネーシ
ョンも怪しげになる。

教材(教える材料)は、 学習者の心の動きを捕え、コミュニケーションを成立させて
いくプロセスが分かる内容で構成したい。意思を伝え合い、情報を確かめ合う真実味
が欠如していると、子どもはすぐに見破って、口頭練習についてこれなくなる。教師
が大声を張り上げて子どもの注意を得ようとしているのは、まさこのような状態の時
だ。

6.指導の方法とテクニック
 どんなによい教材に巡り合うことができても、教材に振り回されることなく使いこ
なすためには、指導者の指導技術を磨くことが急務である。子どもの目線に合わせた、
"motherese"になぞらえられる"caretaker's speech" で語るには、時間をかけて「語
り方」を練習するしかない。授業の前に教師が行う徹底した教材研究とイメージ・ト
レーニングがそれである。教材添付のテープを活用して先生自身が練習し、子どもに
もテープを聞くためのテープレコーダーの使い方をアドバイスしたい。テープを痛め
ないように気を使うよりは、むしろ消耗品としてスピードを変えたり、思いがけな
いところで止めたり、巻き戻しをしてリピーターのようにしたりしながら、口頭練習
の面白さを演出する。子どもと教師の二者だけの学習ではなく、やはり,保護者を含
む家族を巻き込んで、練習し英語で進んでもらいたい。子どもが日頃英語に親しんで
いる方法を理解してもらわないと、親は「英語の授業は遊んでいるだけ!勉強してい
ない!」と子どもの前で不安げな表情をみせ、それが子どもを不安にしてしまう。こ
れを防ぐためにも、テープ教材での練習に大人を誘うのは英語学習の理解を深めるの
に役立つ。

7.子どもの自学自習教材の種類
  子どもがマザー・グースや童話の絵本の絵の美しさに魅せられてぺ一ジを繰るだけ
でも、英語に親しみ、どれだけ英語を自然に吸収していることか計り知れない。テキ
ストも、パラパラとぺ一ジをめくりながら眺めていたくなるようなものであれば、英
語の学習も楽しいものになるであろう。このような自発的な学習を誘うものに、コン
ピューター教材、CD-ROMがある。コースブックそのままの"お勉強風"なものの他に、
絵本に近い構成で子どもがすでに知ってい題材を教材にしたものや、簡単な単語や
表現を聞きながら遊び感覚で繰り返し操作しているうちに、知らず知らず覚えてしま
うように仕組んであるものまで、いろいろなタイプがある。この分野は、これからま
すます新しくて操作しやすいものがでてくるであろうから、大いに楽しみである。5
年前にカリフォルニアの公立小学校でESLの授業を参観したときに、CAI教材が
習熟度の異なる学習者の指導に役立てられていたが、日本でもコンピューターが小学
校に導入されて情報化教育に取り入れられていく現在、有望な教育機器であり、英語
と連携した教材開発の可能性も高いと思う。

8.おわりに
 学習した英語を使って試してみる機会の少ない環境で英語を教えるには、教材の力
は大きい。子どもにも教師にも使いやすい教材を求め,現場の経験を生かした研究が
盛んになることを願う。(成城学園初等学校講師)
ぼーぐなん広場 久埜百合著教材のホームページ