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子どもが英語の語順を間違えるとき           
         
Q:この間のレッスンで、before/afterを使った表現を教えようとしました。例えば、Sunday 
     comes after Saturday.   B comes after A.  Christmas comes before New Year's 
     Day.   Sports Day comes before Culture Day. のような表現を使いました。ところが、
     子どもたちが、自分で表現しようとするとき、Wednesday comes after Thursday.  C
     comes after D. のように逆になってしまうのです。その場できちんと説明して直すので
     すが、納得がいかない様子です。どうしてでしょうか。
 
A: このアクティビティを私もウォームアップでよく使いますし、子どもたちが楽しそうに自分
     も言ってみようとする状況は思い浮かべられるのですが、私の数十年の経験では起こった
     ことのない「誤り」だったので、この質問が寄せられたときは、青天の霹靂!と思いました。
   そのように言葉を使おうとする子どもの姿が思い浮かばず、そんなことがあるのか、という
   感じだったのです。子どもは確信を持ってそのような語順で考え、心の中で作文しているに
   違いありません。

       このような語順の間違いは何故起こるのでしょうか。そこで、しっかり説明している、と
   言われるその先生に、「その説明は何語でなさるのですか?日本語でなさいますか?」と伺
   ってみましたら、当然、というお顔で「日本語で分かりやすく説明している」というお答え
   でした。ナルホド!これが原因なのでした。「日曜日の後に…;Aの後に…」、と力を込
     めて説明すればするほど、子どもの脳は、Sunday after…;A after…と整理しているの
     ですね。
      
    私がこのアクティビィティをするときは、説明をしません。その代わり、after/before 
   を使っていろいろなことを表現してみせるだけ、と先生に申し上げました。教室のカレン
   ダーに手を伸ばして、日曜日から始まっているときは、月曜日から、Monday comes  
     after Sunday. Tuesday comes after Monday.…と言っていき、その逆に、Friday 
     comes before Saturday.  Thursday comes before Friday. とやって、時間割で 
     We have P.E. after Japanese.  We have music after math. のように学科の順番に
     触れたりもします。 年表が黒板の上に貼ってある高学年の教室では、The Edo Period 
     comes after Sengoku-jidai.   And Meiji comes after Edo.  Taisho is before Showa. 
     などと視点を広げます。 説明をするより、子どももよく知っている事実を表現して聞かせ
     ることで理解をしてもらうようにします。その後、その先生も日本語で説明しない方が、
     子どもは正しく理解して英語を使えるようになる、と納得してくださいました。
 
     語順と言えば、こんなこともありました。子どもたちが理解しやすい場所の前置詞で遊
     んでいたときのことです。いろいろなものを隠しておいて、in/on/underを使って場所
     を言い当てるゲームです。子どもたちの好きなゲームで毎回数分はこれで遊び続けてい
     たときに、もう誰も間違えずにThe ball is in the blue box.  The cat(縫いぐるみ) is
      in the bag. と言って、グループ対抗でどちらがたくさん当てられるか競走していまし
     た。いつまでもこんな遊びをしていなくても大丈夫だな、と思い始めた授業で、ある男
     の子が、The book is table on.と言ったのです。私は耳を疑って、でもその子どもを
     傷つけないように、That's right. The book is on the table.と言い、念を押すよう
     にYes, it's on the table.と続けました。何故、急にその子が語順を違えてしまったのか、
     とても不思議でした。授業の終わりにその子が問わず語りに教えてくれたのは、「英語が
     好きだから英語教室に通い始めた。先生は親切でよく説明してくださる。」ということで
     した。 それ以上問い詰める必要もなく、「英語は勉強することがたくさんあるから頑張
     ってね。」と言ってその場を切り抜けました。英語を日本語で説明することの危うさを
     思い知る良い例だと思います。
 
     子どもが語順を獲得するのは、発音を獲得するよりも早い時期に起こるはずです。まだ 
     カタコトで日常の会話をやりくりしている2歳児でも、「机の上」を「上の机」、「袋の中」
     を「中の袋」と言い間違えることは先ずありません。私が子どもたちと長年英語を使いな
     がら遊んできた経験からも、語順がおかしくなって困ったことはありません。複数形を
     間違えたり、最初に言う言葉(Do you have…/Is it…のような)が分からなくて英語
     が切り出せなかったり、ということはよく起こり、口添えをすることが頻繁に起こりま
     すが、前置詞が後に来たり、2冊持っているか、と尋ねたくて  Do you have books 
     two?ということもなく、形容詞+名詞の語順は非常に早い段階で獲得されます。日本
   語では「本を2冊持っている」という方が自然で、「2冊の本を持っている」はいかにも
   翻訳調です。日本語にスイッチを入れたとたんに、脳がDo you have books two?と
   働いてしまう、と考えると、入門期の指導のテクニックに大きな示唆を与えてくれると
     思います。

     そうなんだな、訳をして説明するのは、親切なようで不親切なのだ、と思い至るわけで
     す。こんな事例は、広場にお集まりの皆さんのところに山積しているかと思います。指
     導者が親切なばかりに陥る落とし穴ですね。一にも二にも、英語を聞かせる、というこ
     とが子どもの習得を早める、ということでしょう。

                                               久埜 百合  (中部学院大学)

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