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       ある中学校の先生との対話
3月初め、栃木県の公立小学校で久埜が飛び込み授業をしました。その後、授業参
観された小中の先生方が授業の振り返りをされました。その内容を田村先生(宇都
宮市立雀宮中学校教諭)が私に送ってくださり、そこから、小学校英語の授業作り
や小中での英語の授業の違いについてメイル交換をすることになりました。
今回はその一部をご紹介させていただきます。

授業者 :久埜百合
学 年  :5年生、日時:2008年3月 5限
言語材料:前置詞「on/in/under」を使って英語を使うことを楽しむ
指導背景:児童にとって前置詞は初めて触れるもの
 
@小学校英語に求められるものは何か(授業参観からの気づき)

◆教室の空気を読み、授業の方向を適宜変えている。
 児童が飽きそうだ、というときにするりと話題を替えていた。
 
  久埜:確かに子どもの興味をつなぎとめて、うまくすり抜けるためには、授業の
    ターゲットは変えずに別の切り口で授業を続ける、ということが必要です。  
     そのためにはアクティビティを予定の倍は用意しておく、というのがいい
     と思っています。あの授業でも、結局使わなかった!と思うものが数種類
     ありました◆教室内にあるもの(児童にとって身近なもの)を活用し、児童の関心を引き寄せて
  いる。
   
  久埜:第一に、身近なものこそ、真実味があり、表現する値打ちがあります。
     英語でも日本語でも説明せずに分かってもらえる方法でもあります。
     そして、教材を作る手間も省けますから、できるだけ活用します。
       
◆前置詞を児童に刷り込もう(意味のあるインプット)ということで、前置詞に強
  勢を置いた発話をしている。形を替えて様々にキーフレーズを繰り返していた。
 
  久埜:インプットの最初、という想定でしたから、前置詞にストレスがかかって
       いたと思います。でも、自然なイントネーションで聞かせることも同じ授
    業の中でやっておかなければいけません。2〜3度目の授業ではもっと自
    然に流したいです。

◆初めて出会う児童との授業とは思えないような、くつろいだ雰囲気ができている。
  
   久埜:これは、子どもの偉さだと思います。私を信用してくれたのかもしれませ
        ん。
     授業では、授業者と授業を受けるものとの信頼関係が大切ですね。

◆授業中、子どもたちの間をかいくぐってたくさん動いている。
 =子どもたちの様子をつぶさに観察したり、教具をうまく見せたりする効果があ
  る。
 
 久埜:子どもとの距離は大事だと思います。先生方もきっと、そうされていると
        思います。
 
◆思っていたよりも久埜先生は日本語を使っていた。
 =ターゲット以外の部分では躊躇なく日本語を使っている。
 =児童に物事を考えさせようとしている場合には日本語を使っている。
 
 久埜:子どもたちがターゲットの内容を日本語で考えたり、納得しようとし始め
        ない程度に、授業の手順をスピードアップする為には、結構日本語を使い
        ます。でも、英語の内容を説明することは絶対にしません。次の一手を子
        どもたちから早く引き出したほうが、ターゲットの英語を聞かせやすいと
        思うと日本語を使います。
        ターゲットの英語の意味を日本語に訳したり、ゲームのルールを日本語で
        説明したりすることも避けます。子どもが英語に慣れ、怖気づかなくなれ
        ば、日本語は減らします。今回のように、はじめての出会いで、しかもそ
        れっきり授業をする機会がない場合には、やはり不安がらせると失敗する
        ので安心のおまじないです。
      それから、英語だけで攻め込めば英語の力がつく、とは思っていません。
        子どもたちが日本語で考える暇を与えず、サラッと日本語を使って、直ぐ
        に英語に戻すと、授業の能率は上がり、インプットは増える、と思います。
        日本語を使っているのに、子ども自身は英語での指示や問いかけを聞こう
        としている状態が続くので、案外日本語があるから分かった、とは思って
        いないようです。さんざん日本語も使って授業をしたのに、私のことを日
        本語がしゃべれない人だと思いこんでいるときがあります。
 
◆自然な流れで英語を使っていた。
 
 久埜:授業をひとつのストーリー展開で流したい、と思っています。 無意識のう
        ちに英語で用が足りていた!というふうに、です。 

A中学校(高校)との接続を踏まえて
  ・中学校(特に1年生の最初)では何をすべきか
  ・中学校段階で求められるものは何か 
 
◆中学校の授業にも楽しさを盛り込むべきである。ただ単に教科書を扱うのではだ
  めではないか。
 
 久埜:中学生にも、日常性のある例文をたくさん与えて、自分のことを英語で聞
        いたり、考えたり、話したり、書いたりする、というのが楽しいのだと思
     います。
        中学生が心から授業を楽しむ、としたら、やっぱり、「分かった」と思え
        ることの深さだと思います。自分で、学習中の英語のルールを活用して、
        自分の言葉で表現できたときに「楽しい!」「英語を使って、独力で表現
        できた!」と感ずることが、心に沈む習得だろうと思います。
     読解も、心に響く内容を子どもたちの学習能力に合った英文で読ませたい
        です。その英文を書いた人の気持ちがわかる、共感できる、というものを。
          英語を聞き、受け答えをし、読み、作文をしても、その内容に真実味があ
        るように留意することが、中学生に英語の学習は楽しい、と思わせる秘訣
        だと思います。
    13・14歳の子どもたちの心に響く題材を、心の赴くままに表現させる
       ことが授業のカナメ(要)ではないでしょうか。これでもか、と教えようと
        迫っていくことは、彼らには迷惑なのかもしれません。

◆授業で学ぶべきもの(ターゲット)について授業の冒頭で明示すべきか否か。
 
 久埜:日本語で明示的に行う、ということになりがちではないでしょうか。それ
    を英語でやれば、子どもたちにとっては新しい言語材料なので分からない
        はずですから、学ぶべき内容を示したことになりません。
     授業の導入では、「おや」「不思議だ」などと思わせるような形をとり、 
        明示はしません。児童・生徒の中に「なんとなく・・・」という想像や推
        測が生まれたら彼らの気付きを引き出して、今日のテーマをあからさまで
    はなく、例文をたくさん示します。
    オーラル・イントロダクション、というかウォームアップのところで、ハ
        ハーン、今日の先生の意図はこれだな、と察しのいい子が気づくように授
        業に滑り込みたいですね。コンソリデーションのところで、いやというほ
        どターゲットは分かるでしょう。 
          ターゲットが新しい言語材料だったら、結局、今日の英語の授業で使う表
        現は、こういうことを言いたいときのものだ、と日本語で言わなければ分
        からない、それよりは、使いながら、そういうことを表現できるような英
        語なんだ、と実際に使って納得させるのがいいですね。
    実はこちらが丁寧に分かるように水を引いてやるのですが、自分で考えて
    分かった!という暗示にかける訳です。ですから、教師の仕事ってあんま
         り感謝されない、子どもは自分で判ったと思わされるように仕組む。因果
        な商売ですよね。 
        あるとき、時制について文例をいろいろ聞かせながら示して、それを文字
        化して黙読させ、更に音読させたとき、とてもうまく読めたのです。そう
        したら、その子が言ったのは、「今日は、僕は頭がいいなぁ!先生の説明
        がなくても分かる。」こちらが褒めるより先に自分を自分で褒めているの
    です。ターゲットが内在化された、ということは、こういうことなのでは
        ないでしょうか。
 
◆「小学校でやるべきこと、中学校でやるべきこと」「小学校のねらい、中学校の
   ねらい」をはっきりさせておかないと、小中連携で小学校の教師と中学校の教
   師が話し合いを持っても議論が平行線になる(お互いのやっていることの肯定、
   相手の否定になる)のではないか。
 
   久埜:このご指摘は面白いですね。確かに小・中がもっと理解しあわなければ
         いけないと思っています。問題を深めたいと思います。今度[素地]と
         いう言葉が使われ始めましたが、小学校で培うことの出来る[素地]に
         ついての理解を深めないと、とんでもないことになりそうな気がします。

◆小学校英語は中学校英語を円滑にさせるためだけのものではない。
  小学校段階でも、「ここまでやらせたい」というゴールを明確にして、それを目
  指した活動の積み上げをさせていけるように更に研究をしたい。
 
  久埜:中学からでないと始められない言語活動は何か。小学校から始めないと
        中学からではうまく行かない言語活動は何か、考えたいです。
           中学からでも充分間に合うことに血道を上げている小学校英語活動を目
        にすることがあり、やはり、教師の研修は急がなければ、と思います。

◆中学校では進度をどうしても気にしてしまうので、小学校のエッセンスを取り入
  れながら、時間を使うポイントと、はしょってよいポイントをはっきりさせなが
  ら授業計画を立てたい。
 
 久埜:小学校でもスパイラルに英語を経験させるのがいいと思いますが、中学で
        は更にスパイラルに、螺旋階段を昇らせたいですね。
 
◆小学生の「楽しい」から、中学生の「楽しい」へ発達段階を踏まえ、中学校では
  知的好奇心を満たす「楽しい」活動を設定していくことが大切だろう。
 
  久埜:ゲームや歌が「楽しい」ではない、自分で考えられる、主体的に取り組め
       るから楽しいのだと思います。これは英語の語彙数や聞いたり話したりす
       るスピードなどが違うかもしれませんが、子どもが「楽しい」という気持
       ちになれる習得の基本は小・中同じだと思います。この「楽しさ」とは何
     か、掘り下げたいです。
    子どもが大きな声で、飛び跳ねて、大きな ジェスチャーで、リズムボック
       スのリズムに合わせて英語を復唱しているとき、あれを楽しそうだ、と思
       うのは、大人の[英語らしさ]の理解の貧困さを突きつけられているよう
       で悲しいです。子どもは健気で、先生のやらせようとすることには忠実に
       反応します。でも、あるとき、ふと、おかしい!と気付きます。そのとき
       には、もうついて来てくれません。少なくとも先生の前では、ついて来て
       くれているような表情を保っているかもしれませんが、心の中まで先生が
    制御できるものではないと思います。

**** 田村岳充先生からのメッセージ ****************

  宇都宮大学の渡辺浩行教授のもと、県内の小中高の先生が月に1度集まって自主
 研究会(月例会)を行い、「子どもたちの学びの質を高める」「子どもたちの実践
 的なコミュニケーション能力を育てる」ために、それぞれの校種での取組みを紹介
  しあったり、よりよい接続のあり方について議論をしたりすることを続けています。
  
   上に掲げた目標に迫るために、自校(種)の取組みに固執せず、互いの指摘を真
 摯に受け止め合うことで、一定の方向性が見えてきつつあります。
 そこに、久埜先生をはじめとする外部の有識者の方々からのアドバイスを取り入れ
 ながら、よりよい英語教育について今後も追究していこうと思います。
 
   今回「広場」に紹介された久埜先生とのやりとりを読まれてお感じになられたこ
 とがあれば、ぜひフィードバックをしてください。一緒につながれると嬉しいです。

  ●えいごリアン2000〜2001 この3月で放送終了

 小学校での英語活動に積極的に活用されているえいごリアン2000〜2001の放送が終了いたしました。
 但し、えいごリアンのホームページは今までどおり活用できます。
 したがって、 子どものページではゲームが出来ますし、先生へのページでは、授業プラン、Q&Aなど
 今までどおりアクセスできます。
  
    NHKからお詫びとともに、放送終了に合わせて ホームページも閉じることになった、
    との連絡が入りました。(2008.04.05)
    えいごリアンのテキストをお持ちの方は、どうぞお捨にならないでください。
  詳しくは、
    久埜から追記(クリックしてお読みください)

リンク 現在までに掲載済みの「ぼーぐなん広場」リスト

久埜百合著教材のホームページ

研修・セミナーのご案内

新設しました
ぼ〜ぐなん教材に関する質問・疑問にお答えします


読者の皆さまへ

 「ぼ〜ぐなん広場」をお読みいただいてのご意見、ご質問等を、ぜひお寄せください。
 尚、どういうお立場からのご意見であるのか ということも重要ですので、
 公立小学校教師・私立小学校講師・公立小学校のJTE・塾講師・学生等を明記願い
 ます。

 又、お寄せいただいたご意見を、この「ぼ〜ぐなん広場」でご紹介させていただく場合
 もございますので、
  @掲載させていただいてよいかどうか
  A掲載させていただく場合、実名・イニシャル・匿名 のいずれをご希望されるか
  Bご連絡先のメイルアドレス (ご送信いただいたメイルアドレスと異なる場合)
 もお教えくださいますよう、宜しくお願いいたします。     

 尚、ご投稿は500字以内でお願いいたします。
 原稿の一部のみをご紹介するなど、適宜編集させていただく場合もございます。
 予めご了承ください。

 ご意見のご送信先: kayoko-borgnan@nifty.com (ぼ〜ぐなん 岩橋)