ぼ〜ぐなん広場(55)
小中連携 |
Q: 中学校で英語を教えています。 小中連携について、考える機会が多くなりました。 『子どもと共に歩む英語教育』を読んで、 ・「中学生の学習のストラテジーを支えるのが、小学生の頃に獲得する『英語らし い音のつながり』に対する慣れである。」(p.45) ・「コミュニケーションをとるときに通用する音の基盤を作り、正しい語順で発話 する『感覚』を育てるためには、中学生になってからでは遅すぎる」(p.47) という辺りを興味深く思いました。 今までは、小6の終わりから、中1の1学期を上手につなぎ、子どもたちが自信を 持って中学校英語と取り組めるようにすることが小中連携だと考えていたからです。 小学校で英語に触れてきた子も、そうでない子も、期末試験などテストの成績では、 あまり違いは見られませんが、それは、私たちの「評価の仕方」に問題があるのでし ょうか。 小学校で英語に触れてきた子どもたちの経験を生かすには、中学校では、具体的に どういう努力をすることが求められているのでしょうか。 A: 早速に『子どもと共に歩む英語教育』をお読みいただき、ありがとうございます。 そして、ご質問をお寄せくださったことは、私たちにとりまして大きな励ましでした。 心より感謝申し上げます。 小学生というと6歳から12歳まで、この6年間の子どもの成長は、その前の6年 間に次いで、人生では大変な変化を見せるときだと思います。中でも、10歳くらい までは、日本語であろうと外国語であろうと、情報を運んでくる音を聞き、聞こえた 音から大意を掴み、伝えられたことに対応していきます。細部についてあまり気にす ることはなく、自分の蓄積してきた「知識」を土台にして聞こえた音の意味を判断し、 受け止めます。 一本の糸のように聞こえてくる音の流れのルールを分析的に理解しようとするのは、 10歳を過ぎたころに始まります。それでも、文章を文字化したものに頼らず、耳で 受け止めている限り、前後の単語に密着して聞こえてくる英語の短くて小さな音や、 強調されてはっきり聞こえてくる音を、聞こえた通りに再現しようとします。一つ一 つの文字をすべて発音しようとはしません。そうやって、「英語らしい音のつながり」 に慣れていくのです。文字を見せて、単語を一つずつ判別できるように与えていると、 小学生でも、単語と単語が繋がって聞こえてくる音をそのまま再現することができず、 単語を一つ一つ読もうとしますから、英語らしいリズムを失った、途切れ途切れの音 で再現しようとします。 そうなると、英語らしい音の流れが持つイントネーションやリズムを体得すること が難しく、英語の語順を理屈でしか捉えられなくなります。音声を重視した指導法を 心がけていても高学年になると理屈で納得したいという態度を見せるようになります。 ご指摘のようなことは、指導方法を間違えると、小学生でも獲得しそこなうことがあ ります。 指導の基底にあるのは、母語でも同じことで、たっぷり良い話しかけを聞いた子ど もが良い話し方を獲得し、読む力を獲得し、それに応じた書く力を発揮するようにな る、ということです。これを忘れて、話させることを優先し、文字の音を教えて読ま せようとすると、切れ切れの音を聞かせて真似をさせる指導に力が入り、自然な音の 受け止め方はできなくなります。 中学で行われるテストの場合、多くは筆記で答を求められ、その問題も、文のルー ルの理解度を測るものが多いように思われます。小学校の間に蓄積された 「英語の音 の流れ」をもとに判断して問題を解く、 というより、文のルールを母語を頼りに理解 して、解答欄を埋めていく、指定された文章を書く、という問題に対しては、どうし ても母語で考えながら答を探っていくようになりますから、つい、頭の中に蓄えられ ているはずの英語の音から離れていく危うさがあります。 それから、試験の問題の回答数が限られていて、母語を元に理解していようと、英 語の音に慣れていようと、その理解度を表現するチャンスが少なくて、英語を中学か ら学び始めた友だちと一緒に学んだ英語の知識を、試験の解答用紙に書き込むことし かできませんから、英語経験者と非経験者との差は出しようがない、というのも当然 のことです。自由作文で、多少の間違いがあっても、指定されたテーマについてなる べくたくさん書く、というようなことを求められれば、小学校での英語体験が生かさ れると思います。 でも、そのようなことにくよくよせず、のびのびとできることを表現していって欲 しいと思います。英語のお話の本を読む、易しい内容のニュースを英文で読み取る、 というような課題が英語学習の中に入ってきたときに、英語の音が入っている子ども たちは、一つ一つのフレーズを日本語に置き換えて理解することをせずに、英語のま ま理解することができるようになっています。高校生くらいになったときに、必ず蓄 えてきた力を発揮できるということを、多くの高校生の学びの姿から教えてもらいま した。 小学校英語が、このような学習の基盤になるように、しっかりした指導方法を確立 したいものです。 久埜 百合 (中部学院大学) 参照 ・ぼーぐなん広場No.21 「小中一貫 での小学校英語活動の役割は?」 ・ぼーぐなん広場No.50 「ある中学校の先生との対話」 ・ぼーぐなん広場No.53 「中学校英語の質はどう変わる?」 ・『子どもと共に歩む英語教育』 |
*** ご挨拶 *** 「子どもと共に歩む英語教育」を手にして 本を書いたものが「手にして」というのも妙ですが、印刷やさんから届けられて、 やわらかい黄色の中に English in Action Series やWonderland Series の挿絵が納 まった本を広げてみると、やはり何ともいえぬ感慨に耽ってしまいました。 「子どもに教えられて、この本は出来上がったのだな」という気持ちがふつふつと 湧いてきました。 そろそろこの広場にお集まりの先生方の中にも、お読みくださった方がおられる のではないでしょうか。 お忙しい中、尊い時間を割いてお読みくださり、ありがと うございます。 お読みいただいただけでも有難いのに、さらにお願いを申し上げる のも気が引けますが、厳しいご感想や、更なるご質問をお寄せいただきたく、お待 ち申し上げております。 既に2箇所、校正ミスを見つけています。絶対に眼を通した、と思ったのはシロ ウトの浅はかさでした。 p.76 上から5行目 両方の意味をを納得・・・と「を」が多すぎます! p.188 下から14行目 カルタをすることした。 ここは「することにした」と 「に」が足りません。 まだ出てくるかもしれません。お読みになりにくくて申し訳ありませんでした。 早いもので師走も半ば。来年は、英語ノートの改訂も行われ、いよいよ先生方が 走り出して、一年中師走かもしれませんね。広場を通じて、皆様とさらに勉強を続 けていきたいと願っております。 向寒の折、北からは雪の便りも聞こえますが、どうぞ皆様お元気で。 久埜 |
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